2012年末に発生した笹子トンネルの天井板崩落では、天井板を吊り下げているボルトや固定接着剤の疲労による破損や腐食が大きな事故に繋がった可能性が指摘されています。金型や射出成形機、周辺機械でも長時間の稼動や経時変化によって、機械や金型を構成している部品には寿命や疲労破壊、腐食が発生します。このような物理的な現象は科学的に必ず発生します。それらが発生した場合でも、人命や人体に大きな損害が発生しないように管理を行っておく考え方が重要になります。
フェールセーフ(fail safe)とは、システム又はこれを構成する要素が故障しても、これに起因して労働災害が発生することのないように、あらかじめ定められた安全側の状態に固定し、故障の影響を限定することにより、作業者の安全を確保するしくみのことです。「工作機械等の制御機構のフェールセーフ化に関するガイドライン」、平成10年7月28日付け基発第464号、2(3)より)
金型や射出成形機などの機械の本質的な安全化を図るためには、「1. 機械は故障する」、「2. 作業者は誤りを犯すことがある」という2つの点をまず認めた上で、仮にこれらが偶発的に発生しても作業者の安全が確保される構造を、機械の設計、製造、改造等の段階で構築しておく必要があります。 このために「安全確認システム」が採用されますが、「安全確認システム」が故障すると、作業者の安全が確保されずに労働災害が発生することがあるため、「安全確認システム」では故障時、必ず安全側(労働災害を発生させない形で機械を停止させる側)となる特性が必要になります。
フェールセーフを実現するためには、下記に列挙する「フェールセーフ化の原則」に沿って金型や射出成形機、自動機等を設計し、製作し、改造する必要があります。
- 1)
- フェールセーフ化の対象とする制御機構は、原則として下記の機構です。
- a.
- 再起動防止回路
- b.
- ガード用インターロックの回路
- c.
- 急停止用の回路
- d.
- 非常停止用の回路
- e.
- 行き過ぎ防止用の回路
- f.
- 操作監視用の回路
- g.
- ホールド停止監視用の回路
- h.
- 速度監視用の回路
- i.
- ホールド・ツー・ランの回路
- 2)
- 制御機構は、原則として「非対称誤り特性」を持つように設計する。非対称誤り特性とは、システム又はこれを構成する要素が故障しても、安全側に誤る故障の頻度が危険側に誤る頻度よりも著しく高い特性または安全側にしか故障しない特性のことです。
- 3)
- 制御機構にプログラマブル・コントローラー等の電子制御装置を採用するときは、「非対象誤り特性」を有するものを採用する。
- 4)
- 安全情報は、高エネルギー状態に、危険信号および故障信号は、低エネルギー状態に対応させて、危険や故障を誤って安全と通報しないようにする。
- 5)
- 安全情報は、システムに安全情報が入力されない限り、誤って運転許可信号を発生することのない情報伝達の形態(ユネイト(unate)な情報伝達)によって伝達するようにする。
- 6)
- 予想される最大の環境ノイズに対する耐性を確保するために、安全情報には十分なエネルギーを持たせるものとする。
ハイサイクルで高速な開閉をする金型や大型サイズの金型などの設計では、フェールセーフな設計思想が必要になります。
- ※
- 引用文献:
1)日本労働安全衛生コンサルタント会編『これからの安全技術』中央労働災害防止協会、平成12年1月