プラスチック射出成形金型のキャビティ表面は、樹脂から発生するガスや腐食成分、大気中の水分などで鋼材の表面が酸化して腐食します。一度キャビティの表面が錆びてしまうと、錆を取り除くためには時間と費用がかかってしまいます。キャビティの表面を腐食から守るためには表面処理を施します。大気中には必ず水分が湿度として含まれており、金型や気温の温度変化によって金型表面に結露が生じて、結果的には錆や腐食が発生する原因を作ります。
金型を航空機で搬送する場合などには上空の低温状態から陸上の室温状態へ温度変化することで金型の表面は明らかに結露を生じます。
また、水分が介在することで、金型の部品どうしの間に電位差がある場合には局部電池が形成され、電池の効果によって腐食が進むこともあります。
このような腐食を防止するためには、金属めっきやコーティングを行うと効果的であることが知られています。
表面処理には様々な特徴があり、ケースバイケースで選択されます。
以下に主要なプラスチック射出成形金型用の表面処理とそれにより表面に生成される物質を示します。
硬質クロムめっき | Cr |
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ニッケルめっき | Ni, Ni-P |
ニッケル-ふっ素樹脂コーティング | Ni-PTFE |
窒化 | Fe2N, Fe3N, Fe4N |
浸硫化 | FeS |
硼化 | Fe2B, FeB |
TD処理 | TiC, CrC, VC |
PVD | TiN, TiNAl, TiNCNAl |
CVD | TiN, Al2O3, TiC, TiC2N7 |
これらの処理を行うためには、あらかじめ母材を前処理する必要があるものもあります。 また、高温で処理をするために残留応力の開放による変形を発生したり、焼き戻し現象に至る場合もあります。
皮膜と母材の結合原理は、被覆、金属結合、蒸着などによります。
皮膜の厚さは、コントロールできる処理とコントロールが困難な処理があります。
一度被覆してしまった皮膜を剥がすことは困難ですので、キャビティの形状や寸法を確認して、修正が不要なことを承知してから被覆処理を行わねばなりません。
これらの表面処理は、多くの場合、専門の処理装置を持った専門業者へ委託することが多いです。専門業者は、処理の過程で発生する廃液の安全化処理や回収を行う設備を持っています。金属の表面処理では金属イオンや金属系化合物を廃液として生ずることがあり、これらは人体への影響や環境汚染を引き起こす可能性がありますので、十分な知識と法令順守を守って処理をすることも重要です。