金型を温度維持するためには、冷却水(温水)やカートリッジヒータで、熱エネルギーを型板やキャビティヘ供給しなければなりません。金型へ熱を供給するためには、必要な熱エネルギーの容量を計算しておく必要があります。”経験と勘“で金型を温度調節することで対応が可能な場合もありますが、新しい金型を新規に設計する場合には、技術計算である程度必要な熱容量を予測しておく姿勢は大切です。これから新しいプラスチックの射出成形金型を開発するためには、今までの経験のみでは対応が図れなくなる場面が増えてくることが予測されます。
今回は、ケーススタディで金型の温度調節に必要な熱容量を計算する練習をします。
問題
プラスチック射出成形金型があり、2プレート構造のコールドランナー金型構造を採用している。この場合、以下の設例に基づいて、金型の温度調節に必要な熱容量を求めよ。
■設例
型板のサイズ | 幅250mm、長さ300mm 固定側厚さ60mm、可動側厚さ70mm |
型板の材質 | S55C(機械構造用炭素鋼) |
成形工場の室温 | 25℃ |
金型の使用温度 | 100℃ |
昇温までの時間 | 20分 |
検討例
まず、型板の総重量Wを計算します。
Wは、固定側型板と可動側型板の重量を合わせたものですから、固定側型板と可動側型板の総体積を求め、それに比重sをかけて計算することができます。
- W
- =25×30×(6+7)×7.8/1000
- =76.05(kgf)
したがって必要な熱容量Qは、以下の式で求められます。
Q=W×C×(T1−T2)/(860×h×η)
ただし、
- Q
- :(kw)
- c
- :型板の比熱(S55Cの場合、0.11kcal・h・℃)
- T1
- :上昇時の温度(℃)
- T2
- :室温(℃)
- h
- :昇温時間(hr)
- η(イータ)
- :効率
- ∴ Q
- =76.05×0.11×(100−25)/(860×0.333×0.7)
- =3.12(kw)
したがって、3.12kwの熱容量が必要となります。
仮に400wのカートリッジヒータを使用するとすれば、必要なヒーターの本数nは、
n=3120(w)/400(w)=7.8(本)
となります。
つまり、固定側4本、可動側4本程度のカートリッジヒータを備えておくことが推奨されると考えられます。