腐食・防食
- ライニングとは、鉄板や鉄管でできためっき槽や輸送管の内部に耐食材料を貼り付けて、腐食環境から構造体を保護する働きをさせるものです。 塗装による塗膜の厚さが100から数百μmであるのに対して、ライニングの厚さは、数ミリであるのが普通ですから、その化学的な安定性や機械的強度は、塗膜より格段に優れています。 めっきなど表面処理の工程には、めっき槽、脱脂槽、酸洗槽、電解槽、中和槽、水洗槽など各種の強酸や、強アルカリ、酸化性の強い液などを収納・貯蔵する容器が沢山あります。これらの槽はその収納する液体の重量や処理物の重量に耐えるために通常は鋼鉄製です。この槽類の耐食性を支え、処理液の汚染を防止しているのが耐食ライニングです。タグ:
- 構造材を腐食環境から守るために、前述した耐食金属を、環境に合わせて使用すればよいのですが、あまりにも高価になってしまいます。 そこで考えられるのは、プラスチックなどの有機材料で鉄鋼など対象材料の表面を覆ってしまい、腐食環境から物理的に遮断して保護し、化学的あるいは電気化学的に起こる腐食を防止する目的で塗装が採用されています。 塗装は、塗料をスプレー、刷毛塗り、ローラーコートなどの方法によって対象物に塗布します。その後、塗料の主成分である合成樹脂は、重合等の化学反応により強固な塗膜が形成されます。強固な塗膜の形成には、120℃以上の加熱を必要とするものもありますが、鉄骨など大型構築物には自然硬化型の加熱を必要としない塗料が用いられます。 【表1】に、化学工場やめっき工場などで用いられている、防食用塗料の一般的な性質を示しました。タグ:
- (5)ニッケル合金 ニッケルは高価な金属ですが、ニッケル合金は厳しい腐食環境の中で、他の金属にはないすばらしい耐食性を示す重要な金属です。 ■モネルメタル 銅を30%加えた合金で、高速の海水に耐えるので、バルブの擦り合わせ部分やポンプのシャフトなどに用いられています。また他の金属にない、ふっ酸に強いという特徴もあります。しかし硝酸やクロム酸などのように酸化性のある環境には強くありません。 ■インコネル600 クロム16%、鉄7%を加えた合金で、高温での酸化に対して強いほか、酸化性の水溶液中でかなり強い耐食性を示します。 ■インコネル625 クロムを20〜23%、モリブデン8〜10%加えた合金で、酸化性水溶液の耐食性に、インコネル600より強い耐食性を示します。この合金はオーステナイト系ステンレス鋼の弱点である孔食、すき間腐食、塩化物による応力腐食割れなどを殆ど起さない材料であります。
- (3)銅と銅合金 銅は、海水や淡水に対して基本的には優れた耐食性をもっていますが、物理的特性の改善や高速の海水や淡水によって、表面の耐食皮膜が破壊されて腐食する衝撃腐食などの欠点を補うために、いろいろな合金がつくられています。 ■黄銅 銅に亜鉛を加えた合金ですが、発電所の復水器などに使われています。いろいろの合金があります。 ■レッドブラス 15%の亜鉛を加えた合金で、耐衝撃性はあまり強くありません。 ■7-3黄銅 30%の亜鉛を加えた合金で、亜鉛が増加すると耐衝撃性は向上しますが、海水や淡水中で合金から亜鉛だけが抜けていく脱亜鉛腐食を生じる傾向があります。 ■アドミラルティメタル 脱亜鉛腐食を防ぐために、1%の錫を加えたものです。このほか少量の砒素、アンチモン、りんを加えたものもあります。 ■マンツメタル 亜鉛を40%加えたもので、衝撃腐食には強くなっていますが、脱亜鉛腐食は激しくなっています。 ■アルミニウム黄銅 亜鉛22%、銅76%、アルミニウム2%、砒素少量タグ:
- その環境で腐食に耐える金属を使用すれば、ほかに耐食手段を講じる必要がなく、最も簡単な腐食対策であるといえます。このことから、ほかに防食手段がないとか、耐食金属を用いるのが安い場合に用いられます。実際の使用に当っては、その環境で試験して確認することが必要です。幾つかの実用例を紹介しましょう。 (1)低合金鋼 普通の鋼を炭素鋼といいますが、これに少量のCu、Cr、Ni、Moなどを加えて、特性を向上させたものを低合金鋼といいます。次のようなものがあります。 ■耐候性鋼 少量のCu、Crなどを加えたもので、大気中で雨ざらしで使われると、防食性の高い錆が表面を覆い、この皮膜が数年かけて完成します。以後、腐食は進みません。 ■耐海水鋼 護岸に用いられる鋼矢板や鋼管杭は、海面直上部分が海水のしぶきを受けて腐食します。これを防ぐために、鋼にCu、Ni、Pを含むものや、Cu、Cr、Pを含むものが代表的なものです。タグ:
- 化学装置における冷却系など、限られた範囲の環境では、防食剤を適量添加して金属の腐食発生を防止することができます。防食剤が有効に働く環境は、水・酸・湿気など水の存在する環境で、主な対象金属は、鉄鋼がほとんどです。銅や銅合金を対象としたものもありますが、鉄鋼用に比べればごく小量です。 防食剤が腐食を抑制する作用機構は、防食剤の種類によって異なりますが、次の3つのタイプに分けられます。 (1)不動態化剤 腐食環境へ加えることによって、不動態化を促進して防食するものを、不動態化剤といっています。水中で鋼は、不動態化する性質をもっていますが、空気を含んだ普通の水の中では不動態化せず、より強力な酸化剤の存在で初めて不動態化皮膜を形成します。この系の防食剤として代表的なものは、クロム酸塩や亜硝酸塩です。 これらは、循環冷却水に50〜100ppm添加され、クーリングタワーで放熱するとき、冷却水の一部が蒸発して、蒸発潜熱によって冷却します。 しかし近年は、クーリングタワーからの飛沫の飛散や、廃液処理などの環境問題からクロム酸塩は使われなくなりました。タグ:
- (1)金属浸透法 金属の拡散現象を利用して、表面から他の金属を拡散浸透させて合金層をつくる方法を「金属浸透法(melallic cementation)」といいます。その主なものは、鋼に対するAL浸透calorizing、Zn浸透sheradizingそしてCr浸透chrmizingなどです。 これらはいずれも、拡散を行いますので、高温で行います。従って炉や釜が必要で、これに入らないような、大物は処理できません。私たちが比較的目にするのは、アングル・チャンネルなどの型鋼や、電線管などです。これらは、浸透させる材料(Zn浸透の場合の浸透材は、亜鉛末と酸化亜鉛の混合物)と共に、鉄製の密閉釜に入れられ、炉内で高温に(金属によって異なる、Znの場合は300〜400℃)熱せられます。拡散には比較的長時間を要し、鋼管は焼鈍された状態になり、硬度は低下します。 電線管は、鉄道駅舎の天井を見れば分かるように、内部に電力線や信号線を収容・保護して三次元的に、あらゆる空間に配管します。そのため曲げ施工を容易にするための柔軟性、長期間の使用に耐える耐食性が求められます。タグ:
- (1)金属溶射法 Metal sprayingといわれるこの方法は、ガスまたは電気により熔融した金属を、処理対象物に清浄な空気の力で吹き付けて被覆する方法です。溶射ガンを用いて、金属を比較的簡単に被覆させることができますので、大は瀬戸大橋のような巨大構築物から、入れ歯など義歯のような小物にいたるまで応用範囲の広い処理法です。タグ:
- 防食用のめっきとして、工業的に最も多量に製造されているのは、亜鉛めっきと錫めっきです。亜鉛めっきは、大気や水などの自然環境の中での鋼の防食に、錫めっきは、缶詰用をはじめ缶製品に多用されています。 亜鉛めっきは、鋼よりも卑なめっきの代表で、【図1】に示すようにめっき皮膜にピンホールがあったり、傷ができても、鋼がプラス、亜鉛がマイナスの電池が出来るため、亜鉛の犠牲によって鋼は防食されます。これは、陽極犠牲型の電気防食と原理的には同じです。 従って、ある期間の後に亜鉛めっき層がなくなって、錆びが出始めるので、耐食性は、亜鉛めっき皮膜の厚さに比例します。熔融めっき、電気めっきともに多量に製造されています。タグ:
- 金属体の表面を、それより耐食性のよい他の金属やその合金で被覆する防食法には、めっき、溶射、拡散浸透、合わせ金法などが採用されておりますが、その製品がどのような腐食環境に置かれるかによって異なります。家電製品、自動車、通信機器、建築、化学プラント、船舶、橋梁、地下埋設物などによって様々な表面処理が施されております。 金属被覆の殆どは、「めっき」です。被覆を施そうとする金属を、熔融した被覆金属に浸す「熔融めっき」か、被覆金属のイオンを含む溶液中に金属を入れて、めっきする金属でできた陽極との間に直流を通電することによって、めっき金属を析出被覆させる「電気めっき」かのいずれかの方法が採用されています。 めっき以外にも、熔融させた金属を鋼表面に吹き付ける溶射法や、他の金属を溶接、爆着、圧延などで張り合わせるクラッドと呼ばれる方法もあります。 通常工業的に施されためっき皮膜には、多少ともピンホールがあります。また、使用中に磨耗した傷などが発生します。これらの部分の鋼は露出していますので、めっき金属が貴であるか、卑であるかによって耐食性の挙動は異なります。鋼より貴な金属としては、ニッケル、銀、銅、クロムなど、卑な金属としてはカドミウム、亜鉛があり、アルミニウムや錫は環境によっていずれにもなります。タグ:
- 塗膜は、金属表面を腐食環境から遮断することに意義がありますが、一見頑丈そうな塗膜でも、意外に水や酸素を通しやすいことが分かっています。しかし電気的に絶縁性が確保できる十分な厚さがあれば防食機能を発揮できるようです。それゆえ、塗膜の電気抵抗が防食能力の指標として用いられています。 塗装された鋼の多くは、最初から存在するピンホールなどの欠陥や、機械的な作用によって生じたキズなどを起点として腐食を始めます。このように局部的に始まった腐食は、やがて周辺部へ広がります。このような腐食があちらこちらで発生して、腐食面積は増大します。 したがって塗膜は、キズや欠陥がなく、すぐれた防食性能をもつことが必要でありますが、一旦始まった腐食を横に広がらせない性質を持つことも重要です。このためには、塗膜が素地金属に密着していることが要求されます。タグ:
- 金属体の表面を、腐食環境から遮断する方法として、古くから塗装が行われてきました。塗装とは、ペンキを塗ることですが、塗料を金属表面に塗ることによって、塗膜を形成し、これが腐食環境から金属を保護する役目を果たします。 橋梁、建築物、鉄塔、化学プラントなどの陸上構造物、護岸、沖合構造物などの海洋構造物、各種車両、家電製品などの殆どに塗装が施されています。防食対策費の60%は塗装であるといわれています。 塗料は、塗膜を形成する「ビヒクル」といわれる成分に、不溶性の顔料粒子を懸濁させたもので、通常は、これに溶剤を加えて流動性の液体にして、金属に塗布し、これを自然または加熱によって、溶剤を揮発させると、化学反応によって塗膜が形成されます。 ビヒクルとしては、古くは亜麻仁油や桐油など天然産の油が用いられていました。これらは乾性油であって、空気に晒されると酸化・重合して固化し、塗膜を形成します。 顔料としてビヒクルに加えられるものには、着色のためとして、白色には酸化チタン、黒色にはカーボンブラック、青色には紺青などが使われます。塗膜の光沢、塗膜強度、増量などの目的で、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、粘土、珪藻土、などが使われています。タグ:
- (3)アノード防食法 アノード分極によって金属体を不動態化させて防食する方法であります。不動態化電位が低く、しかも不動態化保持電流が、比較的小さいステンレス鋼で、まず採用されました。 その後、Ti、Ni合金から今日では、鋼にまで及んでいます。 アノード防食を採用するに当って問題となるのは、次の3点です。 (1)所要最大電流 活性状態の金属を不動態化するために越さなければならない電流の山があまり高いと、初期だけに電流容量の大きな電源を必要とします。これは不経済です。しかし、不動態化を早く起すのに大電流が必要であっても、ゆっくり不動態化するのであれば、電流値は小さくてすみます。 (2)不動態化電位範囲 不動態化の電位範囲があまり狭いと、アノード防食の適用は困難となり、活性態あるいは過不動態域に逸脱する確率が大きくなるので、最低50mv以上は必要とされています。タグ:
- (3)犠牲陽極方式と外部電源方式の比較 外部電源方式の利点は、(1)電圧や電流を自由に調節することができる。(2)従って、腐食条件の変化に対応できる。(3)陽極の不溶性が十分であれば、半ば永久的な施工ができる。(4)従って、費用が安くあがる、などです。 これに対して犠牲陽極方式は、(1)施工が簡単で、ある期間は管理が不要である。(2)電源が得られない場所や小型の装置などに適用でき、経済的であること、などです。 外部電源方式の欠点は、(1)電流調節の手間がかかる(自動調節にすれば費用がかかる)。(2)陽極の不溶性や強度が十分でないと破壊して通電しなくなる。(3)投下資本が大きい、などです。 犠牲陽極方式の欠点は、(1)環境と陽極の配置が適正でないと十分な防食ができない。(2)長期間防食効果を保つことが困難で、通常数年程度で陽極の取替えが必要である、などです。 (2)アノード防食適用の問題点 カソード防食を実際に適用しようとすると、次のような問題があります。タグ:
- 微生物の代謝作用による生成物が間接的原因となって起こる腐食を「微生物腐食」と呼んでいます。微生物が直接金属を栄養源として侵食するわけではなく、代謝生成物が、電池を形成しアノード反応やカソード反応を起したり、微生物の繁殖による菌そのものが酸素あるいはイオンの濃淡電池を形成して腐蝕の原因になるといわれています。 腐食の原因となる微生物は、主としてバクテリアでありますが、カビであることもあります。例として、鉄バクテリアによる鋼の腐食、硫酸塩還元バクテリアによる鋼および銅の腐食があります。また、航空機燃料中のカビおよびバクテリアによるアルミニウム合金の腐食などが知られています。大別すると次のとおりです。タグ:
- ガス、水道、通信ケーブル、電力ケーブルなど、土中に埋設される金属体は多く、とくに近年は、エネルギー源としての石油や天然ガスなどの長距離輸送が埋設管によって大規模に行われ、安全上、これら土壌(土中)腐食の防食対策が重要になってきています。 土壌による腐食は、大気や水とはやや異なった趣きの腐食であります。土壌は、土粒、水滴、空気の混合物でありますから、薄い水膜による大気腐食と似たところがありますが、酸素供給量が少ないことや、乾・湿繰り返しが少ないことなどの相違があります。 また、土中における水分は、いろいろな成分を溶存していること、土の保水性や湿度などが場所によって違っていることなどから、酸素の供給量や拡散速度、水と酸素の作用でさまざまな腐食形態が生じます。タグ:
- 水による鋼の腐食は、水に溶けている溶存酸素によって進みます。しかし、大気から供給されるその濃度は、常温で8〜10ppmと非常に低いので、水中を拡散してくる溶存酸素の鋼表面への供給が腐食の速さを決めています。 鋼の表面に付着物が存在しなければ、溶存酸素濃度と拡散速度から、静止した淡水中での鋼の腐食速度は均一に進むと仮定して、0.4mm/年程度といわれています。実際にはさびができて酸素の供給を妨げるので、0.1mm/年程度であろうといわれています。 山地が多く急峻な流れの多い日本の表流水での例は少ないのですが、欧米では平坦な国土を降雨がゆっくり流れ、土や岩石からカルシウムが溶け、水の硬度が高くなり、いわゆる硬水になります。 このような水に鋼の表面が接すると、炭酸カルシウムの皮膜ができて、溶存酸素の供給を妨げ、腐食速度は非常に小さくなるといわれています。 我が国の腐食に対する水質の影響としては、pHは5〜9の範囲であまり影響を与えず、塩素イオンや硫酸イオンの濃度も、静止した状態ではほとんど影響しないといいます。これは、溶存酸素の供給が腐食速度を決めていることにほかなりせん。タグ:
- 金属の大気中での腐食は、金属の表面に付着する水と、空気中の酸素によって起きます。この場合、水中での腐食と違って、酸素が十分にあるのに対して、水の供給が限られるという特徴があります。大気中での金属表面への水の供給は、降雨、空気中の湿分の結露によって行われます。 空気中の湿分の凝縮は、目に見えるような水の層を作らないことが多いのですが、腐食の進行に重要な役割を担っています。屋外では降雨もありますが、屋内の腐食における水の供給は、ほとんど空気中の湿分の凝縮によることが多いのです。 通常、空気中の湿分は相対湿度で表わされます。これは、その温度において水が蒸発して空気中に飽和したときの水分濃度を100%とし、相対湿度は、ある温度における空気中の水分が飽和濃度の何%に当たるかを示しめします。 したがって理論的には、相対湿度が100%にならない限り、金属表面へ水は凝結しないことになります。相対湿度がある程度高いとき温度が下がれば、水分の飽和値が小さくなるので、凝縮が起こります。ところが実際には、温度が下がらなくても水分の凝縮が起きるのです。それは、次の2つの理由によります。タグ: