マグネットとは強磁性体で吸着力を発生する永久磁石とも呼ばれ、鉄鋼の金属部品の吸引・固定などに使用される機能材料である。
性質・用途・使用事例
性質
マグネットは従来のフェライト材、アルニコ材に加えてネオジム、コバルトの希土類磁石の登場によってその吸着力が著しく増大した。表1に磁石の種類と特徴を示す。
表1.マグネットの種類と特徴
ネオジム磁石 | 現在ある材質の中で磁力が最も強く、小さなサイズで大きな磁力を発揮できる。非常に錆びやすいのが欠点である。コバルト磁石とともに希土類磁石とも呼ばれている。 |
---|---|
コバルト磁石 | 正式名称はサマリウムコバルト磁石ともいい、ネオジム磁石に次いで磁力が強い素材であり、錆びにくく高温にも強いのが長所である。機械的強度は劣り、非常に割れやすいので取扱いに注意が必要。 |
フェライト磁石 | 磁力は弱いが、比較的保持力が高いので減磁しにくい素材。機械的強度は劣り、非常に割れやすいので取扱いに注意が必要。 |
アルニコ磁石 | 温度に対する優れた特性を持ち、機械的強度に優れている。非常に減磁しやすいという欠点がある。 |
最も強力な永久磁石はネオジム磁石と呼ばれており、小体積で大吸着力が実現できる。それぞれの種類と磁気的性質を表2に示す。
表2.マグネットの磁気特性値
項目 | 単位 | 強力ネオジム磁石 | ネオジム磁石 | 耐熱ネオジム磁石 | コバルト磁石 | フェライト磁石 | アルニコ磁石 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
残留磁束密度 | T | 1.42以上 | 1.26以上 | 1.23以上 | 1.03以上 | 0.385以上 | 1.25以上 |
保磁力bHC | KA/m | 796以上 | 859以上 | 923以上 | 640以上 | 230以上 | 47.7以上 |
保磁力iHC | KA/m | 875以上 | 955以上 | 1592以上 | 1190以上 | 235以上 | 47.7以上 |
最大エネルギー積 | kJ/m3 | 400以上 | 260以上 | 287以上 | 140以上 | 27.9以上 | 38.2以上 |
密度 | g/cm3 | 7.3~7.5 | 7.3~7.5 | 7.3~7.5 | 8.3 | 4.8~5.0 | 7.3~7.4 |
キュリー温度 | ℃ | 310 | 310 | 340~400 | 710 | 450~460 | 850 |
ビッカーズ硬度 | HV | 500~600 | 500~600 | 500~600 | 600 | 480~580 | 650 |
※最高使用温度 | ℃ | 60 | 80 | 150 | 200 | 300 | 400 |
※径D、長さLの円筒形で、L/D=0.7の場合
最大エネルギー積とキュリー温度は材料によって大きく異なることが判る。その2つは使用環境温度に影響を及ぼす。表3にマグネットの種類とその機械的特性である「磁力」「繰り返しの吸着」「機械的強度」「耐食性」「高温安定性」について、その傾向である強弱を示している。
表3.マグネットの特性
項目 | 参照特性値 | 弱い強い | |||
---|---|---|---|---|---|
磁力 | 残留磁束密度 最大エネルギー積 |
フェライト | アルニコ | コバルト | ネオジム 耐熱ネオジム |
繰り返しの吸着 | 保磁力 | アルニコ | フェライト | コバルト | ネオジム 耐熱ネオジム |
機械的強度 | - | コバルト | フェライト | ネオジム 耐熱ネオジム |
アルニコ |
耐食性 | - | ネオジム 耐熱ネオジム |
アルニコ | コバルト | フェライト |
高温安定性 | キュリー温度 最高使用温度 |
ネオジム 耐熱ネオジム |
コバルト | フェライト | アルニコ |
表4に使用の際の環境温度をマグネットの種類に対して記載している。吸着力が大きなマグネットは、その使用できる温度が低いことが判る。
表4.マグネットの耐熱温度
用途
金属材料の吸着の用途に使用する。その吸着機能を使いやすくするためにメーカーから各種形状のマグネット、取り付け法を考えたホルダ付きのマグネットなどが提供されている。表5にマグネットを素材として使用する際の形状を示す。
表5.マグネット素材形状
丸タイプ | リングタイプ |
---|---|
|
|
ウレタン焼付タイプ | 角タイプ |
|
|
エポキシ樹脂コーティングタイプ | ラバーマグネット |
|
|
「丸タイプ」「リングタイプ」「角タイプ」「丸型樹脂付きタイプ」「ラバーマグネット」などがある。表6に取り付け機能付きマグネットを示す。
表6.取付け機能付きマグネット
ねじ固定穴加工 | 固定用ホルダ埋め込み | ボルト端部埋め込み | 特別機能付き |
---|---|---|---|
ねじによる固定、溝付き、ウレタン付きなどの製品があり、ユーザーは仕様に合った製品を選定することが出来る。
使用事例
図1に開き戸の「閉」位置の保持機能にラバーマグネットを使用した事例を示す。
図1.マグネットの使用事例
ラバーマグネットは両面テープ付きの製品を使用し、開き戸がラバーマグネットに接触することで、その「閉」機能を発揮する。ユーザーはこのマグネットの吸引力により開き戸をあけることが出来る。
選定のポイント
吸着力による選定
マグネットの吸着力を選定する場合、そのマグネットの種類とサイズにより吸着力が異なるためその点がポイントとなる。図2にその参考値を示す。
図2.マグネットの吸着力
Type |
---|
HXNN |
HXN |
HXNH |
HXMS |
型式 | L | 吸着力 N{kgf} |
表面磁束密度 ガウス[G] |
|||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
Type | D | HXNN | HXN HXNH |
HXMS | HXNN | HXN HXNH |
HXMS | |
HXNN (強力ネオジム) HXN (ネオジム) HXNH (耐熱ネオジム) HXMS (コバルト) |
1 | 2 | 0.08{0.008} | 0.06{0.006} | 0.04{0.004} | 1900~2100 | 1100~1300 | 900~1100 |
3 | 0.09{0.009} | 0.07{0.007} | 0.05{0.005} | 2100~2300 | 1200~1400 | 1000~1200 | ||
5 | 0.10{0.010} | 0.08{0.008} | 0.06{0.006} | 2100~2300 | 1300~1500 | 1100~1300 | ||
2 | 2 | 0.77{0.08} | 0.59{0.06} | 0.39{0.04} | 3500~3700 | 2400~2600 | 2000~2200 | |
3 | 0.90{0.09} | 0.69{0.07} | 0.49{0.05} | 3700~3900 | 3100~3300 | 2600~2800 | ||
4 | 0.93{0.09} | 0.72{0.07} | - | 3700~3900 | 3400~3600 | - | ||
5 | 1.01{0.10} | 0.78{0.08} | 0.49{0.05} | 4100~4300 | 3400~3600 | 2600~2800 | ||
3 | 1 | 1.39{0.14} | 1.07{0.11} | - | 2700~2900 | 2000~2400 | - | |
2 | 2.04{0.21} | 1.57{0.16} | 1.08{0.11} | 3700~4000 | 3100~3300 | 2600~2800 | ||
3 | 2.55{0.26} | 1.96{0.20} | 1.37{0.14} | 4200~4500 | 3300~3500 | 2800~3000 | ||
4 | 2.93{0.30} | 2.25{0.23} | 1.47{0.15} | 4400~4700 | 3400~3600 | 2900~3100 | ||
5 | 3.06{0.31} | 2.35{0.24} | 1.57{0.16} | 4500~4800 | 3500~3700 | 2900~3100 | ||
6 | 3.60{0.37} | 2.82{0.29} | - | 4600~4800 | 4100~4300 | - | ||
4 | 1 | 1.86{0.190} | 1.47{0.15} | - | 2400~2600 | 2000~2200 | - | |
2 | 3.69{0.38} | 2.84{0.29} | 1.86{0.19} | 4100~4300 | 3100~3300 | 2600~2800 | ||
3 | 4.97{0.51} | 3.82{0.39} | 2.55{0.26} | 4200~4500 | 3600~3800 | 3100~3300 | ||
4 | 5.60{0.57} | 4.31{0.44} | 2.94{0.30} | 4500~4800 | 3800~4000 | 3200~3400 | ||
5 | 6.11{0.62} | 4.70{0.48} | 3.14{0.32} | 4800~5100 | 4000~4200 | 3400~3600 | ||
8 | 8.50{0.87} | 6.82{0.69} | - | 5100~5400 | 4500~4700 | - | ||
10 | 9.04{0.92} | 6.96{0.72} | - | 5200~5500 | 4500~4700 | - | ||
5 | 1 | 2.65{0.27} | 1.45{0.16} | - | 2100~2300 | 1800~2000 | - | |
2 | 5.10{0.52} | 3.92{0.40} | 2.65{0.27} | 3500~3700 | 3000~3200 | 2500~2700 | ||
3 | 7.51{0.77} | 5.78{0.59} | 3.82{0.39} | 4200~4500 | 3800~4000 | 3200~3400 | ||
4 | 8.92{0.91} | 6.86{0.70} | 4.61{0.47} | 4600~4900 | 4000~4200 | 3400~3600 | ||
5 | 9.93{1.01} | 7.64{0.78} | 5.10{0.52} | 4900~5100 | 4300~4500 | 3600~3800 | ||
6 | 10.57{1.08} | 8.13{0.83} | 5.39{0.55} | 5100~5400 | 4300~4500 | 3600~3800 | ||
8 | 11.64{1.19} | 8.96{0.92} | - | 5200~5500 | 4700~4900 | - | ||
10 | 12.74{1.30} | 9.80{1.00} | - | 5400~5700 | 4800~5000 | - | ||
6 | 2 | 6.50{0.66} | 5.00{0.51} | 3.33{0.34} | 3100~3400 | 2900~3100 | 2400~2600 | |
3 | 9.93{1.01} | 7.64{0.78} | 5.10{0.52} | 4000~4300 | 3700~3900 | 3100~3300 | ||
4 | 12.48{1.27} | 9.60{0.98} | 6.47{0.66} | 4600~4900 | 3900~4100 | 3300~3500 | ||
5 | 12.75{1.30} | 10.88{1.11} | 7.25{0.74} | 5000~5200 | 4300~4500 | 3600~3800 | ||
6 | 15.29{1.56} | 11.76{1.20} | 7.84{0.80} | 5100~5400 | 4400~4600 | 3700~3900 | ||
8 | 15.34{1.66} | 11.80{1.28} | - | 5400~5600 | 4700~4900 | - | ||
10 | 15.39{1.69} | 11.84{1.30} | - | 5500~5800 | 4800~5000 | - |
ユーザーは、仕様の吸着力に対して、満足する数字を選定すればよい。この時、吸着力の調整が組み立て時に要求される場合は、両者の位置を変える機能を付加しておけばよい。
取付け法による選定
マグネットの取り付け法は、表6に示す取り付け法を考慮した製品を利用し、これに見合った構造を採用すればよい。このネオジム、コバルトを材料としたマグネット材は焼結材を固化しているので、衝撃力、応力集中に弱いので、この点を考慮した取付け方法とする。この取付けの注意を示したのが図3である。
図3.取付けの注意点
- 必ず平面にマグネットを置いてください。(イラストB)
- マグネットの穴とタップ穴の位置がずれていないことを確認してください。(イラストC)
- 皿ボルトを取付ける前にゴミが付着していないことを確認してください。(イラストD)
皿ボルト止めタイプのマグネットの固定穴を皿ボルトで固定する場合、図3に示す様に皿部の形状と取り付け底面の形状がマグネットに応力集中をしない構造としておかなければならない。
取付け環境の選定
マグネットの取り付け環境に切粉などの金属の粉が存在する場合、吸着力の低下が発生する。また、マグネット固定の際の応力集中の発生原因となるので、マグネットを取り扱う環境は金属の粉末を除去する必要がある。マグネットの吸着力は、使用する温度環境でその値が低下することがあるため、使用可能温度は管理しなければならない。使用温度の制限値は表4に示しているので、この数字以下で使用する。
また温度により磁力を失う場合がある。常温で使用する時より温度が上がると磁力が弱まり、再び温度を下げると磁力は元に戻る。しかし、「キュリー温度」まで熱が加わると、 磁石は磁力を完全に失うので注意が必要。
また、ネオジム磁石は表面処理を施しており、吸着の衝撃や経年変化で表面処理が剥がれてしまい錆びてしまう場合がある為、表面処理が破損しないよう取扱いに注意し極力水気の多い場所を避ける必要がある。
正しい保管方法
磁石の保管に最も適している方法は鉄等の磁性体に磁石を吸着させておくこと。
磁石の表面からは絶えず磁力が発生しており、ストレスの掛からない使用方法であれば、永久磁石といわれるように長期間使用することができる。
時間経過と共に徐々に減磁が起こるが、減磁を小さくする為には磁力線の流れを安定させる必要があり、磁石を鉄等の磁性体に吸着させ磁気回路を作ることが有効になる。
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マグネット
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円形タイプ | 形状から探す | 丸 リング アーク型 |
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材質から探す | ネオジム磁石 コバルト磁石 フェライト磁石 アルニコ磁石 | |
吸着力(N)から探す | ~10.0 10.1~20.0 20.1~30.0 30.1~40.0 40.1~50.0 50.1~60.0 60.1~70.0 70.1~80.0 80.1~90.0 90.1~100.0 100.1~ | |
ブランドから探す | マグナ マグファイン ミスミ ネオマグ 光 二六製作所 和気産業 MAGSOL(マグソル) |
|
角タイプ | 材質から探す | ネオジム磁石 コバルト磁石 フェライト磁石 アルニコ磁石 ポリアミド磁石 |
吸着力(N)から探す | ~10.0 10.1~20.0 20.1~30.0 30.1~40.0 40.1~50.0 50.1~60.0 60.1~70.0 70.1~80.0 80.1~90.0 90.1~100.0 100.1~ |
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ブランドから探す | マグナ マグファイン ミスミ ネオマグ 光 二六製作所 和気産業 MAGSOL(マグソル) |
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ホルダタイプ | 形状から探す | 丸 角 |
材質から探す | ネオジム磁石 コバルト磁石 フェライト磁石 アルニコ磁石 | |
吸着力(N)から探す | ~10.0 10.1~20.0 20.1~30.0 30.1~40.0 40.1~50.0 50.1~60.0 60.1~70.0 70.1~80.0 80.1~90.0 90.1~100.0 |
|
ブランドから探す | マグナ マグファイン ミスミ ネオマグ カネテック タキゲン製造 鍋屋バイテック 二六製作所 和気産業 MAGSOL(マグソル) |