10. 駆動トルク
ボールねじの摩擦特性と駆動モータの選定
10-1. 摩擦と効率
ボールねじの効率ηは摩擦係数をμ、ねじのリード角をβとすると次式で示されます。

10-2. 負荷トルク
駆動源の選定(モータ等)に必要な負荷トルク(定速駆動トルク)は次のようになります。



11. 駆動モータの選定
駆動モータを選定する場合次の条件を満足する必要があります。
- モータの出力軸にかかる負荷トルクに対して余裕があること。
- モータの出力軸にかかる慣性モーメントに対して所要のパルス速度で起動・停止ができること。
- モータの出力軸にかかる慣性モーメントに対して所要の加速、減速時定数が得られること。




なお、モータの仮選定後、
- トルク実効値のチェック
- 加速時定数のチェック
- 過負荷特性、起動・停止のくり返しに対するモータ過熱許容値のチェックを行い余裕がある事が必要です。
12. ボールねじの選定例 (X軸の場合)
12-1. リード(L)の設定
モータの最大回転数と早送り速度より次式にて計算します。

この場合、20mm以上のリードが必要となります。
12-2. ナットの選定
(1)軸方向荷重の算出
6-2.の軸方向荷重の計算式より各運転パターンにおける軸方向荷重を計算します。
- ・定速時
- 軸方向荷重(Pb)=μWg=0.02×40×9.8≒8(N)
- ・加速時
- 加速度(α)=
(Vmax/t)×10-3=(1000/0.15)×10-3=6.67(m/s2) - 軸方向荷重(Pa)=
Wα+μWg=40×6.67+0.02×40×9.8≒274(N) - ・減速時
- 軸方向荷重(Pc)=Wα-μWg=40×6.67-0.02×40×9.8≒260(N)
(2)各運転パターンにおける1サイクル中の運転時間
デューティサイクルモデル線図より以下となります。
動作パターン | 加速 | 定速 | 減速 | 総使用時間 |
---|---|---|---|---|
使用時間 | 0.60 | 0.84 | 0.60 | 2.04 |
(3)各運転パターンにおける軸方向荷重、回転速度、運転時間のまとめ
動作パターン | 加速 | 定速 | 減速 |
---|---|---|---|
軸方向荷重 | 274N | 8N | 260N |
回転数 | 1500min-1 | 3000min-1 | 1500min-1 |
使用時間率 | 29.4% | 41.2% | 29.4% |
(4)軸方向平均荷重を算出
6-3.の計算式より算出します。

(5)平均回転数を算出

(6)所要基本動定格荷重の算出
①正味運転寿命時間(Lho)を算出
希望寿命時間より休止時間を除く正味運転寿命時間は、
1サイクル4.01sにおいて、運転時間は2.04sのため次のように計算できます。

②所要基本動定格荷重の算出
6-1.の計算式より正味運転寿命時間を確保するために必要なボールねじの基本動定格荷重を計算します。

(7)ボールねじの仮選定
リード20、基本動定格荷重2970Nを満たすボールねじとして、BSS1520を仮選定します。
12-3. 精度確認
(1)精度等級と軸方向隙間の検討
「ボールねじリード精度」の一覧表より、
位置決め精度±0.1/720mmを満足するのは、代表移動量誤差±ep0.040/800~1000mmである精度等級C5であることが確認できますので、BSS1520で問題ありません。
また、「ボールねじの軸方向隙間」の一覧表より、
BSS1520の軸方向隙間0.005以下は、繰返し位置決め精度±0.01mmを満足することを確認できますので、BSS1520で問題ありません。
12-4. ねじ軸の選定
(1)ねじ軸全長の選定
ねじ軸全長(L)=
最大ストローク+ナット長さ+余裕量+軸端寸法(支持側、固定側)ですので、
最大ストローク: 720mm
ナット長さ: 62mm
余裕量: リード×1.5=60mm
軸端寸法: 72
ねじ軸全長(L)=720+62+60+72=914(mm)
* 余裕量とはオーバーラン対策の量で通常はリードの1.5~2倍程度に設定します。
リード20×1.5×2(両端)=60(mm)
(2)許容軸方向荷重の検討
荷重作用点間距離ℓ1は820mmですので、「4.許容軸方向荷重」の計算式より許容軸方向荷重Pは、

軸方向最大荷重274Nは許容軸方向荷重7225N以内なので問題ないことが確認できました。
(3)許容回転速度の検討
支持間距離は790mmですので、「5-1.危険速度」の計算式より
許容回転数Ncは、

最高回転速度3000min-1は、許容回転速度3024min-1以内なので問題ないことが確認できました。
また、DmN値は、「5-2.DmN値」の式より、
DmN=
(ねじ軸外径+A値)×最高回転速度=15.8×3000=47400≦70000
となり条件を満たすことが確認できました。
12-5. 選定結果
以上より適合するボールねじの型式は、BSS1520-914となります。