円筒絞りで最も多い割れが、【図1】に示す「底抜け」と呼ばれる割れです。材料はダイ面を移動しながら変形して、ダイに入り、ダイ形状に成形されます。このとき、材料はダイ面の移動中には周方向の圧縮を受け、ダイ肩部では曲げ変形を受けます。共に材料の変形抵抗となります。この変形抵抗に抗してダイ内に材料を引き込む力は、パンチによってもたらされます。主にパンチのR部分で材料を引っ張ります。パンチRが小さいと材料との接触面積が小さくなり、局部に力が集中する形となりパンチR部に近いところで割れます。それが、底割れです。
【図2】は、同じ割れでもフランジに近い部分で割れるものです。これは、底割れの逆の現象です。ダイ肩部の変形抵抗が材料の降伏点を超え割れるものです。変形抵抗を大きくしている要因には、ダイRの形状が滑らかでなく、角張った形状をしている。ダイRが小さい。しわ押さえ力が大きいなどが考えられます。
【図3】は、テーパー絞りや半球絞りに見られる割れです。これらの絞り加工では、絞り途中の材料が拘束されずに、パンチ、ダイ間で自由な状態におかれます。このときに、材料を強く引っ張っておかないとしわが発生します。引っ張りすぎるとちぎれることになります。それが、この割れ方です。対策としてはできるだけ材料を拘束するような金型構造とすることです。
【図4】は、絞った直後には割れずにしばらく(数日間)してから割れるものです。置き割れとかシーズンクラックなどと呼ばれます。ステンレスや黄銅を厳しい条件で絞ったときに起きる現象です。対策としては、絞り条件をゆるくする。絞り後にひずみ取り焼鈍を行うことです。
以上が円筒絞りによく見られる割れです。割れ方の特徴を知ることで、原因部分を推定し対策が考えられるようにしましょう。