一般の金属は、多くの結晶が集まってできています。結晶粒子と結晶粒子が接する境界にあたる面を結晶粒界(略して粒界)といいます。数多い結晶粒子内では、それぞれ原子が整然と並んでいますが、隣接する結晶粒子とは原子の配列の方向が違います。したがって、これらをつなぐ粒界の原子は、どちらの原子とも整合しなければならないので、その並び方は乱れています。つまり、エネルギー状態が高い状態にあるといえます。
このことは、結晶組織を観察するための顕微鏡観察試料を、適切な腐食液でエッチングすると、粒界が溶解されて、一つ一つの結晶粒子がよく見えるようになることからも、粒界のエネルギー状態が高いことが理解できます。
このような化学的な腐食は、表層に留まり、これ以上進みませんが、ある種の条件下で加熱されると、結晶粒界の化学組成に変化を起こし、腐食環境の中で、選択的な腐食が発生します。SUS304のようなオーステナイト系ステンレス鋼にこのような現象がみられます。その理由は次のとおりです。
ステンレス鋼が錆びにくいのは、表面に不動態皮膜が生成されるためであり、そのためにはクロムの存在が不可欠です。ステンレス鋼には通常12〜13%以上のクロムが必要であるといわれていますが、粒界腐食で問題となるのは鋼中の炭素の量です。
炭素はクロムと結合してクロム炭化物をつくり易い性質をもっています。クロム炭化物は、ステンレス鋼を500〜850℃の温度範囲で、炭素含有量によって違いますがある時間以上加熱されたときに生成します。750℃くらいが一番短く0.06%の炭素含有量では、1分以内、500℃では数百時間であるといわれています。
このクロム炭化物は、主として粒界に生成されます。炭化物になったクロムは不動態皮膜の生成には役立ちません。したがって粒界に沿って不動態皮膜のないステンレス鋼の表面が出現することになります。このような状態のステンレス鋼が腐食環境に晒されると、粒界に沿って腐食が進行します。これを「粒界腐食」といいます。粒界腐食されたSUS304の断面写真を【図1】に示しました。腐食の原理は電池の形成で、不動態皮膜のある部分がプラス、ない部分がマイナスとなって粒界腐食が進みます。 |
粒界腐食を防止する対策として、次のようなことが行われています。最終形状になったステンレス鋼材を1000℃以上に加熱して、クロム炭化物の溶解、他の部分からのクロムの拡散による粒界への移動を促進させ、水で急冷させる、「容体化処理」を行っています。
このように粒界腐食防止処理を行ったステンレス鋼材を用いて溶接など高温になる加工を行うと粒界腐食が起こるので、このような使用はしないほうがよいです。このような用途には、炭素量を低くしたSUS304LやSUS316L(0.03%C)などを使用します。
粒界腐食は炭素鋼では生じませんが、高力アルミニウム(数パーセントの銅を含む合金)では発生します。