薄板の抜き加工で、パンチとダイのクリアランスを合わせることに設計で苦労することがあります。それは金型を構成する金型部品に誤差があり、その兼ね合いで最適条件を作ることができなくなることがあるからです。
最も精度の良いと思われる研削加工で温度管理されたところで金型部品を加工しても、±2μmが位置や形状精度としては良いところではないでしょうか。一般的には±5μmの精度でしょう。
このような精度で、SPCCの0.1mmの材料を4〜8%のクリアランスで加工することを考えるとき、クリアランスのねらい値を6%(6μm)とすると、+6/-2μmの実寸法となります。最も精度が期待できる加工法を採用しても、金型部品精度で金型を作ることは難しいかも知れません。しかし実際には、この程度の板厚を加工する金型は問題なく作られています。
なぜできているのでしょうか。それは、どこかで加工の誤差を調整することを行っているからです。
【図1】は一体式のプレート構成の金型です。個々のプレートには加工誤差があります。3枚のプレートに軸(パンチ)を通すためには、パンチと穴の間には加工誤差以上のすきまを持たせておかないと、どこかのプレートでパンチが穴にこすれる状態が発生します。パンチの数が多くなるほどパンチと穴のこすれが多くなります。
【図2】は入れ子式のプレートで作った構造です。プレートの加工誤差があっても入れ子を動かすことで調整ができます。金型を構成する部品点数は多くなりますが問題は解決します。
調節ができることは良いことなのですが、3枚のプレートの入れ子を勝手に動かして調整していたのでは寸法がめちゃくちゃになります。「基準」となる部分を決めて、金型を作る必要があることが分かります。
設計者は、どこを基準として、どのように組立ればよいかを考えて金型を設計します。金型を組立・調整する仕上げ者は、設計意図を理解して、組立・調整作業をする必要があります。
この関係ができていないと、良い金型部品を揃えても良い金型ができないかも知れません。